あなたのすべてが知りたいの。
そんな欲求とともに、お気に入りの物書きの作品は片っ端から読みまくる。ブレイディみかこも例にもれず、店主の本棚には彼女の著作物が新旧問わず並ぶ。壮観。
舞台はイギリス。
14歳の少女ミアのリアルな世界を、一世紀も前に実在した日本人カネコフミコと歩む。ここではないどこか。「別の世界」を見ることができた稀有な存在のフミコに共感(sympathy)し、フミコの生い立ちに共鳴(empathy)するミア。
子どもには親を選べない。
どんなに劣悪な環境におかれても、子どもであるという牢獄から逃れることはできない現実(リアル)を、14歳の視点から残酷なまでに描く。
『しかたがない』と諦めず、別の世界があると信じて生きるフミコとミアの眼差しの先にある希望を、大人である私たちは、どう手を差しのべることができるのか。
緊縮が進み貧困の格差が広がりをみせるイギリスの底辺社会に、明日はわが身である日本も対岸の火事では済まされないほどの危機感を覚えた。これは、フィクションだけれど、ノンフィクションであり、大人たちが改めて子どもが育つ環境を考えるべきなのだと警笛を鳴らす一冊だ。
この物語に登場する実在の詩人、パフォーマー、レコーディングアーティスト、小説家、劇作家であるケイ・テンペストのLP(名盤『THE BOOK OF TRAPS and LESSONS 』発売当時はケイト・テンペスト名義ですが、その後改名)もあわせてお買い求め、聴きながら読むことをおすすめします。
余談ですが、この店主、著者に対し互いにパンク母ちゃんであるというところにも勝手にシンパシーを感じているのである。他者の靴を履きながら「こんな小さい靴履けるかー」と文句を云いながら、エンパシーについて日々ぶつくさと考えているのである。ここだけの話。
『両手にトカレフ』ブレイディみかこ(ポプラ社)
『THE BOOK OF TRAPS and LESSONS 』Kae Tempest